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(第3回)改訂版への移行をどのように進めていくか?

一次文書と主要規定の関係を見直してみましょう

【図1】【図1】

はじめに

前回(第2回)連載文書では、中小規模のマネジメントシステム担当者の皆様に、ISO9001:2015移行を機会に、図1.を基に三次文書と呼ばれる、現場での日常管理手順書の管理の見直しを提案しました。第3回の今回は、同じく、ISO9001:2015移行を機会に、マネジメントシステムの基本ルールとなっている主要規定(通称、品質マニュアル、二次文書)の見直しを考えていきたいと思います。

毎度のことですが、あくまでも、ISO9001専任部署や専任担当者を持たない、中小規模の会社を想定してのお話なので、大手企業の皆様には参考にならない部分があるかと思いますが、ご容赦ください。

減少した文書化要求(文書化した情報)

今回の改訂版 ISO9001:2015 では文書化した情報の要求は大幅に減少しています。2008年版での明確な6文書の作成は消え、文書化を求めているのは、

  • 品質方針(文書化した情報として利用可能な状態にされ、維持される)
  • 品質目標(組織は文書化した情報を維持しなければならない)
  • 運用の計画及び管理(文書化した情報の明確化及び保管)        

あたりです。

しかしながら、組織として必要な文書に変化は無いと解釈しています。つまり、「不要な文書は、文書化するな!要求」に見えるのです。組織に文書化の裁量を任されているのであれば、当たり前と言えば当たり前ですね。改訂版発行を機会と捉え、文書体系を見直しませんか?

品質マニュアル・基幹文書の方向性 2つの例

品質マニュアルは品質マネジメントシステムの最上位と位置付けている中小規模企業は多いと思います。実際には図2のように、企業理念、企業方針があり、その下に文書があるのですが、職務分掌側の最上位にあると言えます。就労規定・就業規則の上位に置くのはちょっと難しい部分がありますね。

また、品質マニュアルと二次文書の関係ですが、図3の例Aまたは例Bの事例が大部分かと思われます。中小規模と言っても、比較的大きな組織では例Aが多いでしょうし、小さな組織では例Bが多いと思います。少し気になっているのは、20~50人程度の企業でも、例Aのような多階層の文書体系を作っている企業が目立つことです。おそらく大手企業の事例にならって、又はコンサルタントの奨めに従って策定されたかと思うのですが文書管理の重さに苦しんでいるようにも見えます。もう少し身の丈に合ったシンプルなものにしませんか?

大手並みの品質マニュアル(40~60頁)を策定したうえで、15~20の重要(2次)文書を付け加えると、相当なボリュームになります。専任の事務局を置くことが困難な中小規模の会社には結構な負担になっていませんか?例2のような形で2次文書を品質マニュアル内に抱合し、マニュアルそのものは、絵や図、フロー図などで、ビジュアル化すれば、大きな負担無しに文書化された情報を策定できると考えます。

【図2】【図2】
【図3】【図3】

品質マニュアル・重要(2次)規定は誰が読むの?

2015年版規格要求事項を文書だけで表現すると、かなり長文になりそうです。規格文書が固く、一般的な言葉では無いため、平易な文書に置き換えていくと、どうしても語彙・表現が広範囲にわたり、文書としての量が増えます。さて、その長い文書を「誰が読む」のでしょう?職務分掌系の最上位文書でありながら、各部門の長は読んでいるのでしょうか?従業員は読んでいますか?読むのは事務局と審査員だけですか?全ての従業員に読まれる文書として、平易な図や表を駆使し、シンプルにまとめてみませんか。

例:品質マネジメントシステム及びそのプロセスをシンプルにあらわす

箇条4.4 はプロセスの相互作用を含む、品質マネジメントシステムの確立、実施、維持と継続的改善を要求しています。また詳細項番では、

  • a)インプットとアウトプットを明確にすること 
  • b)相互関係を明確にする 

などが示されています。 

4.4 品質マネジメントシステム及びそのプロセス
4.4.1 組織は、この国際規格の要求事項に従って、必要なプロセス及びそれらの相互作用を含む、品質マネジメントシステムを確立し、実施し、維持し、且つ継続的に改善しなければならない。組織は品質マネジメントシステムに必要なプロセス及びそれらの組織全体にわたる適用を決定しなければならない。また、次の事項を実施しなければならない。

  • a) これらのプロセスに必要なインプット、及びこれらのプロセスから期待されるアウトプットを明確にする。
  • b) これらのプロセスの順序及び相互関係を明確にする。

以下、続く

これらの要求事項を俯瞰図にあらわすと、図4のようになります。組織によって多少形は違うはずなので、中小規模の製造業の事例として見ていただけると幸甚です。ざっくりですが、プロセスアプローチ全体の相互関係が見えることで、一般従業員の皆さんにも分かり易いと思います。この図に規格の要求事項を口語体で分かり易く、補足事項として追記するだけで、一次文書としての機能は十分果たせているでしょう。

【図4】【図4】

例:リスク及び機会への取り組みをシンプルにあらわす

箇条6.1はリスク及び機会への取り組みを記述していますが、2015年版はリスクアセスメントを要求しているわけではありません。ただ予防ツールとして品質マネジメントシステムを利用してのリスク管理を考えなさい、と言っているように見えます。もう少し簡単に表現すると、「組織が決めたリスクに対し(6.1)品質目標として達成計画を立てなさい(6.2)」ということです。かなり簡略化していますし、他の要求や注記も含まれていますが、大筋が間違えていなければ、企業活動と整合するものだと思います。

6.1 リスク及び機会への取り組み
6.1.1 品質マネジメントシステムの計画を策定するとき、組織は4.1に規定する課題及び4.2に規定する要求事項を考慮し、次の事項のために取り組む必要があるリスク及び機会を決定しなければならない。
a)品質マネジメントシステムが、その意図した結果を達成できるという確信を与える。
b)望ましい影響を増大する。
c) 望ましくない影響を防止又は低減する。
d)改善を達成する
6.1.2 組織は次の事項を計画しなければならない。
a) 上記によって決定したリスク及び機会への取り組み
b) 次の事項を行う方法
  1)その取り組みの品質マネジメントシステムプロセスへの統合及び実施(4.4.参照)
  2)その取り組みの有効性評価
6.2 品質目標及びそれらを達成するための計画策定
6.2.1 組織は、品質マネジメントシステムに必要な、関連する機能、階層及びプロセスにおいて、品質目標を確立しなければならない。

以下、略

上記文書を、表にあらわすと図6にまとめることが出来ます。図の中に箇条6.1と6.2を盛り込むことは、そう難しい事ではありません。リスクアセスメントを求めているわけではありませんが、例えば取締役会や経営会議の中で、列挙法を使って検討する事により、リスク及び機会の決定が、よりやり易くなります。他に、「リスク加重法」や「リスク加算法」「リスク積算法」「マトリクス法」「リスクグラフ法」など様々な手法がありますが、それぞれの企業にフィットしたものを探すのが良いかと思います。

また、「6.3 変更の計画」を盛り込む場合には、

  • 変更の目的と影響予測又は目論見の記述
  • 資源の追加があれば追記
  • 責任部署の変更や責任者の変更の追記

などを表内に追記できる様式とし、変更管理基準を整えれば簡単に対応できるでしょう。

【図6】【図6】

例:マネジメントレビューをシンプルにあらわす

例として9.3 マネジメントレビューを挙げてみましょう。

箇条9.3 マネジメントレビュー

9.3.1 トップマネジメントは、組織の品質マネジメントシステムが、引き続き、適切で、妥当かつ有効でさらに組織の戦略的な方向性と一致していることを確実にするために、あらかじめ定めた間隔で、品質マネジメントシステムをレビューしなければならない。

9.3.2 マネジメントレビューへのインプット
マネジメントレビューは次の事項を考慮して計画し、実施しなければならない。

  • a) 前回までのマネジメントレビューの結果とった処置の状況
  • b) 品質マネジメントシステムに関連する外部及び内部の環境の変化
  • c) 次に示す傾向を含めた、品質マネジメントシステムのパフォーマンス及び有効性に関する情報
    1) 顧客満足及び密接に関連する利害関係者からのフィードバック
    2) 品質目標が満たされている程度
    3) プロセスパフォーマンス、並びに製品及びサービスの適合
    4) 不適合及び是正処置
    5) 監視及び測定の結果
    6) 監査結果
    7) 外部提供者のパフォーマンス
  • d) 資源の妥当性
  • e) リスク及び機会に取り組むために取った処置の有効性
  • f) 改善の機会

9.3.3 マネジメントレビューからのアウトプット
マネジメントレビューからのアウトプットには、次の事項に関する決定及び処置を含めなければならない。

  • a) 改善の機会
  • b) 品質マネジメントシステムのあらゆる変更の必要性
  • c) 必要な資源 

組織はマネジメントレビューの結果の証拠として、文書化した情報を保持しなければならない。

規格の要求事項をそのまま書いてしまうと、非常に解り辛いものとなってしまいますね。これを、図もしくはフローであらわすと、図7の例のようになります。この図でインプットとアウトプットの流れの全てを表してしまい、ついでに「あらかじめ定められた間隔での開催」と「記録に残す」ことを明示し、さらに「経営システムとの統合」まで入れ込んでしまったらいかがでしょう?

長い文書で表すより、よほど判りやすいと思いますが?図7には、「経営者の判断」という経営の基本が盛り込まれています。つまり、経営者は多くの情報から方針・目標を定め、組織に周知し、その出来栄えを見直し、目標を達成する、ことを目指します。またその達成のプロセスに対し説明責任を持ちます。PDCAの流れそのものですね。2015年改訂版では、トップマネジメントの実行責任と説明責任に重点が置かれています。その中でもトップ自らが行うこの箇条の表現が、もっと分かり易くなる方が、従業員にも外部の利害関係者にもメリットがあると思います。

【図7】【図7】

まとめ

品質マニュアルや基幹文書はアウトプットとして出される帳票の解説書では?

さて、3回に渡って中小規模組織の、ISO9001:2015改訂版への移行に際し、記録(帳票)や重要文書、三次文書(現場手順書)の策定の仕方を具体的な例を挙げて、解説・提案をしてきました。

今回の改訂では、規格の整合性を考えて、上位構造(High Level Structure)付属書SLの考慮により、経営マネジメントとの融合や他システムとの統合がやり易くなっています。それぞれの個別規格の最上位文書として、マニュアルがあったはずですが(ISO1400では作成は求められていませんが)、文書化要求が少なくなり、各企業での裁量に任される部分が大きくなっているのであれば、品質マニュアルを含む上位文書にも新しい役目が与えられても良いはずです。それが、帳票類(保持を求められる文書化された情報)の解説書としての役割です。

さらに下位文書もそれを「補足するための文書類」と考えれば、図1右側の、逆三角形文書体系が分かり易くなりますね。製品・サービスの供給を受けた側(顧客)から見てみると、理解しやすいです。

保持を求められる文書化された情報(記録)は

  1. 生産会社であれば、製品を出荷した(アウトプットした)証拠としての記録。
  2. サービス会社であれば、サービス提供を行った証拠としての記録。
  3. アウトプット=利害関係者からの要求に沿った出力で、不具合があればフィードバックが掛かるもの。
  4. 文書類は出されたアウトプットに至るまでのプロセスを解説するもの。
  5. 完成度の高い製品及びサービスの提供が行われた証拠としての、帳票保持。

このように考えていくと、本当に必要な文書、記録類が見えてきませんか?

常に自問をしながら

前2回の連載でも伝えてきましたが、ISO9001:2015への移行を進めていくのであれば、中小規模の企業では品質マネジメントシステムの見直しを行う絶好の機会が訪れているのではないでしょうか。

  1. この主要文書の目的は何か?⇒何のための文書か?
  2. 製品・サービスの提供に影響を与えるか?⇒品質リスクを持つか?
  3. 他に影響はあるか?(顧客、安全、環境、情報リスク、法令など)
  4. この主要文書があることで、業務はやり易くなるのか? 効率化につながっているのか?

自社の仕組み(文書化された情報)を自問しながら、移行を進めていきませんか?

次回は、各箇条の図、絵、表を使ったシンプル化の補足説明と、内部監査について述べたいと思います。

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