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(第6回)内部監査員育成方法 その2

前回は各時期における内部監査員の育成方法と手段、求められる能力について述べました。

ISO内部監査システム段階表 監査員育成方法と求められる能力(図1)
時期時期内容特長育成状況と手段求められる能力
導入期 規格適合確認監査 ISO語格闘時期 とりあえず外部研修へ参加
・14時間前後の研修と修了書授与
・場合により外部委託
ISO語を翻訳して被監査側に伝える力
・ISO概要の理解
定着期 自社システムとの適合確認監査 内部監査員育成格闘時期(監査員身分問題を内包) 自社基準の監査員育成
・自前教科書作り
・自前育成プログラム
ケーススタディ等を通し
・パフォーマンス監査力
・システム監査力
・コミュニケーション力
成長期 パフォーマンス重視の有効性監査 本業監査時期 パフォーマンス・システム改善能力育成
・過去事例の検討会
・モデル職場に対しての改善案抽出
トップから末端まで
・指示系統を理解した縦の監査力
・サプライチェーンも意識した横の監査力
発展期 複合監査/統合監査 複数システム監査期 管理職研修のひとつ
・部門運営研修
経営者の視点での業務監査
・複数の管理手法の熟知
・複数の経営手法の理解
  1. ISO導入期・・外部研修を利用した規格の読解力
  2. ISO定着期・・内部育成によるパフォーマンス、システム監査力の向上
  3. ISO発展期・・トップダウンとサプライチェーン監視⇒縦の監査力、横の監査力
  4. ISO発展期・・経営の視点での監査力、タートルモデルの理解

2と3の間に大きな壁があり、そこを乗り越えた組織が、上手くマネジメントシステム監査を活かすことができる組織といえます。そのレベルまで到達すると、「監査員の身分問題」も上手く解決できているでしょう。貴方の組織はどの段階まで来ましたか?

今回は連載の最終回となります。前回に引き続き、監査員の育成方法の続きと、監査員の力量の検証方法を述べた後に、全体のまとめに進みたいと思います。

内部監査員を育成したけれども・・力量の証明は?

監査員を育成する方法はいくつかありますが、その力量が内部監査員に値するかどうかまで検証している組織は、案外少ないのではないでしょうか。「外部研修で内部監査員講習を受けてきて、ちゃんと修了書をもらってきています!」と発言される事務局もいらっしゃいますが、外部研修を受けてきただけで即、監査ができないことは、皆さんご存知のとおりです。ISO17024でも監査員の力量確保のための新スキームが定められていますが、内部監査員に対しては、自組織内で力量検証のための仕組みを作ることができるのですから、これを上手く活かさない手はないです。教育訓練体系の見直しを上手く行うことによって、効果的に力量を検証できるでしょう。

監査員の力量を向上させるために

内部監査員の育成手順を図-2で表してみました。
普通の組織では、内部監査員のペーパーテストまではやりますが、監査実務の判定まで行うところは少数派でしょう。
しかし、内部監査を組織のマネジメント力向上に本気で役立てる気持ちがあれば、本当に実力のある内部監査員を育てるのが、近道のはずです。認証取得後間もない組織や小さな組織では、ステップ5、6あたりは不要でしょう。大きな組織(300人以上)では、監査員の力量チェックはステップを踏んで、正確に行いたいところです。また、育成はOJTと集合研修を上手く組み合わせる必要があります。どちらか片方だけでは力量は付きません。

内部監査員の力量とは

監査員の持つべき力量として、ISO19011や多くの教科書では、下記のような項目が挙げられています。

  • 規格の知識・・・それぞれのISO規格
  • 監査基準の理解・・・自組織のルール、基準、規定、慣習など
  • 的確な質問・・・コミュニケーション能力
  • チェックリスト作成能力・・・監査のポイント、重み付け
  • 正確な監査報告書・・・被監査側の同意を得ている
  • 親しみやすさ・・・人間的な魅力
  • 公平さ・・・威張らない、卑屈にならない、私情をはさまない
  • 言葉の分かりやすさ・・・規格の言葉に頼らない平易な表現
  • 相手レベルに応じた変化・・臨機応変
  • 真面目な態度
  • その他

なかなか全ての要素を満たしている監査員はいないと思いますが、この項目をレーダーチャートに表すことによって、監査員個々の強み弱みが見えてきます。(図-3)監査員育成ステップで(図-2)、内部監査員評価者が監査の場に立会い、記録し、アドバイスを与えながら、監査員を育成していきますが、何よりも監査員自らが自分の克服すべき弱点を知ることが大切です。貴方の組織はどのような検証方法を行なっていますか?

ステップアップした内部監査員の力量証明・・・誰がやるの?

監査員の力量の保持、更なる向上

監査員が育ち内部監査が上手く回り始めても、それで全てが終了したわけではありません。事業展開が速く、新製品・新商品が短期間で開発・販売され、周辺環境が刻一刻と変化している現代において、前年度と同じ内部監査で良いという理由がありません。当然、監査員にもそれ相応の勉強が求められます。

1.ブラッシュアップ・スキルアップ教育(定期的集合教育)

多くの企業で、定期的に内部監査員力量向上のための研修会が行なわれています。ベテランの監査員が講師役になったり、外部から講師を招いたり、形は様々ですが1年に1度くらいの頻度で集合教育を行なうことが多いです。よく見かけるのが、

  1. 自組織の過去の「内部監査指摘事項」を使った事例研究会
  2. 新聞、マスコミ等を賑わせている「企業不祥事」を例に取った事例研究会
  3. 架空の組織を例にした「ケーススタディ」

などです。ブラッシュアップ・スキルアップ研修を定期的に行なう必要性を理解している組織(レベルが高い)では、この段階では規格の項番の解釈などは行なわず、実務に近い研修を行なっています。

2.外部との交流会

ISO規格の良いところは、国、地域、産業種、企業の壁を乗り越えて、共通の規格の言葉で話が出来ることです。(国際規格だから当たり前なのですが。)審査機関主催の(その機関で認証を受けた企業の)研修会が非常に盛んですし、特に最新発行規格の解説コースなどは、(無料で開催されることが多いことも一因ですが)大盛況です。その参加企業同士から、「横のつながり」ともいうべき企業交流会が、少しずつ生まれています。利害関係を考えなくても良いことから、業種の壁を飛び越えた交流会が増えています。共通の言葉(マネジメントシステム及び内部監査)があるということは、思わぬ繋がりが生まれるものですね。

これからの内部監査員力量検証

内部監査員の育成、ブラッシュアップが行なわれ、育成自体のPDCAが上手く回り始めると、力量の証明もレベルアップしていきます。前号の「育成方法」でも述べたのですが、「力量の証明」も育成方法同様に社内要員による検証と社外に委託する検証に分かれていくでしょう。

1.社内要員による検証

①監査部門による専門職評価・検証

社内の監査部門が監査のプロとして、マネジメントシステムから会計検査・コンプライアンス検証まで全て行なう。さらに、組織に所属する内部監員の力量検証まで責任を負う。

②マネージャーによる相互検証

マネージャーはその職場のQMS・EMS・OH&S・ISMSまで全て責任を負っているので、内部監査員としてもっとも適任といえる。しかし、利害関係のある自職場を監査することは無いので、力量の検証はマネージャーによる相互検証の形を取る。

2.社外委託検証

①有能な外部検証者の確保

小さな組織では、内部に監査員力量検証者を持っている場合はほとんどありません。そこで外部のコンサルタントに検証を依頼することになるでしょう。多くの場合、内部監査員の育成やブラッシュアップ・スキルアップ研修を契約し
たコンサルタントが、そのまま検証まで請け負うことが多いでしょう。

社内でも、社外でも検証者はそれ相応の実力を持った人間を割り当てることになりますが、そうそう簡単に見つかるものでもありませんし、内部で育成できるものでもありません。第3の手として「インディペンデント・コントラクター」(略称IC)の活用が考えられます。図-4

インディペンデント・コントラクターの活用

インディペンデント・コントラクター(IC)とは

複数の企業と個別に業務委託契約を結び、専門性の高い仕事をこなすプロフェッショナルをインディペンデント・コントラクターと呼びます。専門の協会もあるくらいですから、内容をご存知の読者も多いでしょう。高い専門性を持ち、「期間限定のリーダー」として業務委託契約を結ぶことにより、企業には

  1. 固定費の削減(社員以上の能力だが社員ではない)
  2. 実力者の採用(人材育成の時間短縮)
  3. 人ではなく「業務」の管理に特化できる
  4. 必要な時期に必要な業務割り当てができる
  5. ICの仕事の進め方は、社員の見本となる

など、多くのメリットがあります。もちろん、有力なICを見つけるには、企業側も努力が必要であることは当然です。また、業務委託の効果を上げるためには、ICとの十分なコミュニケーションが必要です。

「マネジメントシステムの構築と内部監査体制、監査員育成」を専門家に任せることは、時代が求める雇用形態に合致しているように見えます。

連載テーマ「内部監査の活用方法」・・・まとめ

全6回の連載のそれぞれの回のテーマと内容を振り返ってみましょう。

第一回内部監査の進化の過程

初回ではマネジメントシステムの成熟度によって、内部監査がどのように進化・深化していくかを示し、自組織がどの位置にあるかを確認していただきました。

  • 導入期、定着期、成長期、発展期の内部監査
  • システムの進化に合わせて、監査も進化

 

第二回監査計画とチェックリストの進化

二回目は監査プログラムの進化の重要性を中心に解説しました。

  • 監査プログラムのPDCA・・・プログラムも生きている
  • 集中監査、循環監査、複合監査
  • 監査の重み付け・・・対象により視点は変わる

第三回監査チェックリストと監査の実行

三回目は監査実務の注意点を解説し、被監査側が納得する監査所見の重要性を述べました。
連載の中で、もっとも重要な部分です。

  • 監査チェックリストから離れて・・・チェックリストの功罪
  • 監査員の人選・・・チームワーク重視
  • 情報収集はPDCAと4Mの観点で・・・目の付け所が大切
  • 監査結果の表現・・・伝わらなくては意味が無い

第四回効果的な是正処置と予防処置

この回では、過去の監査の有効性を確認しながら、正しく不具合を相手に伝えることの大切さを述べています。

  • なぜ同じ指摘が何回も続くのか・・・なぜ、なぜ、なぜ?
  • なぜ是正処置が機能しないのか・・・罠にはまる
  • 問題解決の罠・・・論理的思考不足
  • 予防処置・・・転ばぬ先の杖は経費削減になる

第五回内部監査員育成方法

この回では「実力のある」内部監査員を育成するための工夫を提案しています。

  • ISO語格闘時期・・・規格の理解へ
  • 内部監査員育成格闘時期
  • 内部監査員の身分保証・・・大きな分岐点
  • 本業の監査・・・ステップアップした組織

最終回内部監査員育成方とまとめ

・内部監査員の力量検証
・インディペンデント・コントラクター活用の薦め

連載全体を通して、システムの進化に合わせて内部監査も進化していくことを述べていますが、実態として「システム構築」と「内部監査」は車の両輪と言われていながら、内部監査が後手後手に回っているように感じます。内部監査がシステム進化に追いついていくためのヒントを提供することがこの連載の真のテーマです。

連載を通して伝えたかったこと

多くの企業・組織がISOの第三者認証を取得し、マネジメントシステムを構築しています。自組織の業務は正しく行なわれているか?正しく改善を進めようとしているか?を知るためのツールとして、内部監査は有効です。せっかくのツールを上手く使いこなすことが大切であり、「良い仕事」を行なうために活用していただくことを願っています。

連載終了にあたって・・謝辞

皆様の職場で、極めて優秀なツールであるISO規格を上手く自社の組織に落とし込み、
使いこなし、その有効性を確認する道具としての内部監査を大事にしていただきたいと考えます。
長期にわたり、拙文をお読みいただきありがとうございます。皆様の組織の内部監査に対し、何らかのお役に立ていただければ幸いです。

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