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(第5回)内部監査と、内部監査におけるリスクと機会を考えてみましょう

【図1】【図1】

はじめに

前回(第4回)連載文書では、中小規模のマネジメントシステム担当者の皆様に、ISO9001:2015移行を機会に、図1.を基に一次・二次文書と呼ばれる、品質マニュアルや基幹文書の見直しを提案しました。文書を絵や図やフロー図を使って、シンプルに解り易くすることで、9001:2005年版への移行をスムーズにする狙いがあります。プロセス図やフロー図を多用することにより、文書管理の負担を少なくし、中小規模企業の一般従業員の方が理解しやすくすることも狙っています。

第5回の今回は、同じく、ISO9001:2015の内部監査に焦点を当て、マネジメントシステムの再構築を考えていきたいと思います。毎度のことですが、あくまでも、ISO9001専任部署や専任担当者を持たない、中小規模の会社を想定してのお話なので、大手企業の皆様には参考にならない部分があるかと思いますが、ご容赦ください。

ゆっくりと移行を進めていきましょう

この連載の第一回(12月号)に下記のような移行日程を皆様に提案しています。

日程 実行内容
1ヶ月目 記録の見直し。不要記録の排除。記録の統合、改廃。
2ヶ月目 実務手順書の見直し。教育資料と実務手順書の区分け。
3ヶ月目 規定類の見直し。上位文書・下位文書の統合、改廃。
4ヶ月目 基本規定の見直し。平易な文書への改定。
5ヶ月目 最上位文書(場合によっては品質マニュアル)の見直し、改廃。
6ヶ月目 内部監査の実施。結果を踏まえてのマネジメントレビューの開催。

2018年9月14日までに移行及び認証を完了させるのであれば、時間は十分あります。また規模が小さい組織では、策定される文書や記録も大企業ほどは多くなく、見直しにそう多くの時間は費やさないと思われます。しかしながら、人的な資源が少ない状況が考えられますので、兼務で業務を行っている事務局の皆さんにとっては、なかなかの負担ですね。コンサルタントの支援を受けることができる組織は幸運と言えます。マネジメントシステムに理解のある経営層が、直接的にかかわる企業も、資源の提供は十分でしょう。しかしながら、ISOに対して消極的なトップの組織では、時間的にも人手的にも十分な状況とは言えないかもしれません。焦らずゆっくりと移行作業を進めましょう。

システムの構築と文書改定はできたけど…リスク

2015年版へのマネジメントシステムの構築と文書管理が順調に進んだとして、事務局の皆さんがホッとした時に、内部監査員の育成ができていないことに気付くと思います。自分自身はISO9001:2015の理解は出来たけれど、同じように理解できている人材は育っていますか?中小規模企業では、管理責任者や事務局は専任ではなく、他の業務との兼任が普通だと思われます。2015年改訂版教育に管理責任者又は事務局担当者を研修に派遣することは出来ているでしょうが、内部監査員研修への派遣予算まで用意できている企業の方が少ないのが現実でしょう。

例えば、公式な内部監査員として登録可能な14時間研修コースの相場は数万円ですが、地方から東京や大阪の研修会に参加する場合には、交通費と宿泊費を合わせて、一人当たり10万程度の出費は覚悟することになります。まだまだ地方での公式コース開催は少ない(無い?)ようですね。もちろん、公式な内部監査員コース研修まで望まない組織もあるでしょうし、格安なコースで十分と判断される企業もあるでしょう。各地の商工会議所や団体主催の育成研修会で十分という声もあるでしょうが、開催まではまだまだ時間がかかりそうですね。

さて、研修後に、内部プログラムを立案し、チェックリストを作成し、監査計画を立てて、となると、システム構築と文書改訂は出来たとしても、監査完了までは1~2ヶ月は掛かりそうです。監査の独立性や公平性を考えた場合、品質管理責任者や事務局の内部監査は、それなりの実力者が行う必要があります。みなさんの職場では、そのような方はいらっしゃいますか?育てることは出来ましたか?

内部監査のプログラムを負担少なく考えたい! リスクを機会に 

内部監査で一番悩むのは、「監査時間をできるだけ短く、効率よく進めるのはどうしたらよいか?」だと考えます。もちろん新規格(ISO9001:2015)をよく理解した人間で、自組織をよく知る人物が監査を行うのがベストですが、システム構築を行った管理責任者又は事務局以外でこの条件に見合った人は、小規模組織ではなかなか確保が難しいのではないでしょうか。

こんな時にはどうしたら良いでしょう。

  • ① 監査プログラムを工夫して、部門の監査を短時間で行えるようにする。
  • ② 監査を複数日に分割し、一回当たりの監査時間を短くする。
  • ③ PDCAを考えた日程配置とし、監査効率を良くする。
  • ④ 要求事項から、主管部門と思われる部門に対しての監査を実行する。
  • ⑤ 自身の業務を監査しないように、公平性に配慮する。⇐これは当たり前ですね。

上記のような工夫で、管理責任者や事務局の負担が減らせると思われます。これを図に表すと 図2.のようになります。

【図2】を挿入する

管理責任者、事務局の負担を少なくする時間配分、監査頻度は? 機会へ

図2.では、計画書の中にP(計画)、D(実施・実行)、C(点検・評価)及びA(処置・改善)を、主管する項番で、重点確認項目としています。例なので、細かいところは違っているかもしれないのでご容赦を(笑)お願いします。

規格の条項を全て確認するのは、限られた時間内で行う内部監査では無理がありますね。規格項番に合せて全項目を確認しても、チェックリストに沿った単純な「Yes,No監査」になる確率が高いです。またチェックリストを埋めるだけの「形式的監査」ともいえます。まして、2015年版に移行したばかりでは、内部監査員にそれほど規格全般の理解が進んでいるとは言い難いです。

そこで、重要項目に絞った監査、重み付けを考えた監査をお奨めすることになります。PDCAを担う各部門の重点監査・循環監査を行う事によって、人的資源に乏しい中小規模企業でも、監査能力の高い人を活かしきることが出来ます。「私のところはもっと効率の高い監査を行っている。」と、手を上げる管理責任者もおられるかもしれませんが。この監査方法で、改訂版であっても、部門監査時間を1部門当たり、2時間以内にすることが可能だと考えています。また、年2回の監査実施の可能性もあります。ここまで行けると良いですね。狙いは形式的監査の排除と、監査効率の向上、2015年版への慣れ、です。

図2.はあくまでも一例ですので参考となれば幸いです。

段階を踏んで監査レベルを向上させていきましょう

とはいえ、一挙に監査レベルを上げていくことは難しいです。また効率向上が100%正しいわけでもないです。新規格が確実に浸透していくことを目指すのであれば、規格の部分部分の適用をじっくりと進めていくことが大事です。もともと旧2008年版でも、マネジメントのシステムの運用は正しく出来ていたはずですから。社会や企業の変化に合わせ、旧規格と現状のずれや不一致点を改訂していますし、会社が規格に合わせて経営をしているわけでもありません。

内部監査に求められているもの、期待されているものは、下記のような項目と思われます。

  • 内部監査は規格との適合性を確認する。
  • 内部監査は自社が決めたルールとの適合状態を確認する。
  • 内部監査は、より有効なシステムの向上を行うために、改善点を見つけていく。
  • 内部監査は、トップの方針、会社の方向性と現状との差異を確認し、改善に結び付けていく。
  • 内部監査は、システムの運用状況の有効性を改善していく。 Etc.

組織によって、内部監査に求めるものに違いはあるかもしれませんが、焦らず、ISO9001:2015内部監査を向上させていきましょう。少しずつ2015年版での内部監査に慣れてきたら、徐々に重点項目監査から、プロセス監査、有効性監査に移行していきたいですね。

それでも内部監査は大変だ!と感じたら・・・

ISO専任者を置くことが難しい中小規模企業では、いくら工夫をしても、内部監査に悩むことは避けられないでしょう。前々章でもあげましたが、ISO9001:2015版移行・構築に活躍した管理責任者、事務局以上に、規格を理解している人はなかなかいません。この理解者だけで内部監査を全て行うのは結構な負担です。小規模だから対象部門が少ないとしても、自身の仕事は監査できません(マネジメントシステムの構築部分も)。

そこで提案です。思い切って、「外部の力」を借りてみませんか?

内部監査を期間限定で外注化?

【図3】【図3】

人的リソースが十分でない中小規模企業では、「内部監査員育成時間を外注化する」戦略もありそうです。ISO9001:2015自社内部監査員が育成できるまで、期間限定で外の力を借りようということです。その間に、自社のマネジメントシステムの充実を図る時間を確保し、内部監査員育成時間を作る感覚ですね。システムの出来栄えを専門家に見てもらいながら、その監査ノウハウを学んでいきます。

前回の3月号で図3.で示しましたが、当初の1~2年は外部の力を借りて、その間に自社監査員を育成することで、十分な費用対効果を得られると思われます。結果として、その方が時間の節約と、早期の人材育成が可能になるケースが多いのではないでしょうか。少々、乱暴な意見かと感じられるでしょうが、資源(人・モノ・金)の制約が常に伴う中小規模企業であればこそ、トップ主導で思い切った方策が取れると思いますが。 いかがでしょう?

但し、ISO9001の専門家(コンサルタント、教育機関、審査機関の一者監査等)にそのまま依頼するのは、「ちょっと視点が違うかもしれない」と言うのが、筆者の意見です。この詳細は以下に述べます。

外部の誰に内部監査を頼むのか?

内部監査を一時的に外注化するにあたって、「誰に依頼すればよいのか?」と疑問がわいてくるはずです。

今回の改訂版では、今まで以上に経営システム(事業目標達成)との融合に視点が向けられています。顧客要求としての製品やサービスを向上させるのに、戦略的な視点を持ちなさい、は序文の0.1一般でも示されていますし、5.1.1のリーダーシップ及びコミットメント一般でも事業プロセスへの統合を求めています。

規格の解説は様々なところでされていますので、話を内部監査依頼先の決め方に戻しましょう。中小規模企業にとっては、事業プロセスを考えると、会社運営能力に影響を与える外部内部の課題は、沢山ありますが、

  • 運転資金の調達
  • 人的資源の不足
  • 製品の開発能力
  • 最新設備導入の遅れ etc

課題だらけなのですが、中小規模企業でこれらの状況を監視して、常に戦略的に考えていくのは経営者だけの力ではちょっと心もとない部分がありますね。下記のような人たちの判断力も借りる必要がありそうです。

  • 契約している会計士/会計事務所
  • 中小企業診断士
  • 取引先の二者監査担当者
  • 経営コンサルタント etc

もちろんこの方々の力が、内部監査に直結するわけではないですが、財務や会社戦略や新製品・サービス開発のアドバイスが出来て、品質マネジメントシステムの監査が可能な人を探しましょう、ということです。結構、ハードルが高いかもしれませんが、やってみる価値はありそうですね。

このあたりのことは、アイソス誌2014年11月号「BCMSのリスクと機会」や2015年3月号「内部監査の事例」でも少し述べさせていただいております。中小規模企業の平時の事業継続マネジメントから、内部監査を見てみようという視点です。(図4)

自分自身も、このような形での内部監査を依頼されるケースが、ここのところ増加しています。時代の要求でしょうか。

【図4】【図4】

どのような監査をお願いするのか?

ISO9001:2015規格で、リーダーシップ及びコミットメントに対する経営者への要求事項を考えた場合、相当経営にまで入り込んだ、レベルの高い監査が求められそうです。ここまでくると、内部監査の外注化というより、経営アドバイザーに近いかもしれませんね。 そうなると、内部監査のやり方も

  • 規格項番を逐次監査していくのではなく、経営者や従業員インタビューを通して、出てきた事実を規格要求  に照らし合わせていく。
  • トップやマネジメントシステム構築に精通したアドバイザーと、生産やサービス現場に精通したコンサル タントがチームを組んで内部監査を進める。

上記のようなやり方が効果的と考えられます。中小規模企業では、一時的な費用負担が増しますが、内部監査員候補者がその監査を目の当たりに見ることによって、力量向上や情報の共有化に役立つのであれば、経営幹部候補者育成の視点で見ると、安いものになるでしょう。

最終回を迎えるにあたって

半年にわたって展開してきた、中小規模企業の皆様にISO9001:2015へのスムーズな移行に対しての持論展開・提案ですが、次月(5月号)連載がいよいよ最終回となります。半年間の振り返りとまとめを示したいと思います。

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