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(第4回)文書管理と内部監査を見直してみましょう

使用頻度から見た文書体系

【図1】【図1】

 

はじめに

前回(第3回)連載文書では、中小規模のマネジメントシステム担当者の皆様に、ISO9001:2015移行を機会に、図1.を基に一次文書と呼ばれる品質マニュアルと、二次文書と呼ばれる主要規定の見直しを提案しました。基幹文書であるこれらの文書を、実務に即した、図、絵、フロー図を多用することによって、重い文書管理から抜け出す機会になります。

第4回の今回は、同じく、ISO9001:2015前回に引き続き、マネジメントシステムの基本ルールとなっている主要文書(通称、品質マニュアル、二次文書)の見直しと、内部監査を考えていきたいと思います。毎回お知らせしていますが、あくまでも、ISO9001専任部署や専任担当者を持たない、中小規模の製造業やサービス業企業を想定してのお話なので、大手企業の皆様の体制とは一致しない部分があるかと思いますが、ご容赦ください。

目で見て解るマニュアルに

前回の連載では、全体のプロセスのつながりやマネジメントレビューを概念図とフローで表現することを皆様にご提案しました。また、リスク及び機会への取り組み(6.1)として、リスク加算法の抽出表を使用して、リスクと取組むべき課題を明確にしました。これらは全て、概念として規格の要求事項を捉えやすくするための手段です。硬い文書で表現するのではなく、表や図で分かり易く表現したものです。

中小規模の企業では、人的資源の制約もありますので、パートタイマーやアルバイトの方にも、会社がどのような方向を目指してマネジメントを回しているかを理解していただく必要があります。実務を担う方々が理解しやすいマニュアル・手順書が必要です。2015年改訂版では、文書化要求が減ってはいますが、実務として必要なものは文書化した情報として維持するのは当然と思えます。

今回は、製品及びサービスの提供実務に関連した、

  • 8.2 製品及びサービスの要求事項
  • 8.3 製品およびサービスの設計・開発
  • 8.4 外部から提供されるプロセス、製品及びサービスの管理
  • 8.5 製品及びサービス提供の管理
  • 8.6 製品およびサービスのリリース
  • 8.7 不適合なアウトプットの管理

などを、目で見て解る表現に表すことを提案します。

例:最上流の、「製品及びサービスの要求事項」をシンプルにあらわす

例として 箇条8.2 製品及びサービスの要求事項を 概念図とフローで表してみます。箇条の要求事項は

8.2.1 顧客とのコミュニケーション

    • a) 製品及びサービスに関する情報の提供
    • b) 引き合い、契約又は注文の処理。これらの変更を含む。
    • c) 苦情を含む製品およびサービスに関する顧客からのフィードバックの取得
    • d) 顧客の所有物の取扱い又は管理
    • e) 関連する場合には、不測の事態への対応に関する特定の要求事項の確立

 

以下、8.2.2.製品およびサービスに関連する要求事項の明確化⇒8.2.3製品及びサービスに関連する要求事項のレビュー⇒8.2.4 製品及びサービスに関する要求事項の変更 と続きます。

この要求事項を、絵に表すと、図2.のようになります。もちろん全ての組織が同じ図のようになるわけではないのですが、自社の現状に合わせて、アレンジが利くかと思います。この図に関しては、連載1回目(2015年12月号)の、記録のシンプル化で提案した「顧客要求打ち合わせ票」と比較しながら見ていただくと分かり易いです。(図3)

「8.2.1顧客とのコミュニケーション」~「8.2.4製品及びサービスに関する要求事項の変更」が、全て盛り込まれている帳票の使い方を解説するような図になります。ポイントは、「お客様からの注文要求は、対等な立場で合意する」ではないでしょうか。受注する側は、どうしてもお客様要求を優先に考えるあまり、不合理な要求まで受け入れてしまう可能性があります。長い目で見ていくと、相互の利益には成り難いため、「互恵関係」を長く保つためにも対等さが求められます。

【図2】【図2】
【図3】【図3】

例:たとえば設計・開発をシンプルにあらわす

次に、例として箇条8.3 製品及びサービスの設計・開発 をあげてみましょう。箇条の要求事項は、

8.3.1 一般 組織は、以降の製品及びサービスの提供を確実にするために適切な設計・開発プロセスを確立し、実施し、維持しなければならない。

8.3.2 設計・開発の計画 設計・開発の段階及び管理を決定するに当たって、組織は次の事項を考慮しなければならない。

  • a) 設計・開発活動の性質、期間及び複雑さ
  • b) 要求されるプロセス段階。適用される設計・開発のレビューを含む。
  • c) 要求される、設計開発の検証及び妥当性確認活動  

~以下省略

以下、8.3.3 設計・開発のインプット⇒8.3.4 設計・開発の管理⇒8.3.6 設計・開発の変更 へ続く。

この要求事項を絵に表すと、図4.のようになります。設計・開発のポイントは、顧客要求や法的な制約、過去の類似製品で発生した問題点など「インプットされた情報を活かし、質の高い設計アウトプットに繋げる」ことだと考えます。質の悪いアウトプットは、変更と手戻作業につながるからです。

また実務として、質の高い設計・開発を行うためには、質の高い設計・開発者の育成が欠かせません。この部分に関しては、箇条7.1.1や7.1.2及び7.2の人的資源への取り組みで明確にすることになります。

【図4】【図4】

例:外部からの提供プロセスと、製品及びサービスの管理をシンプルにあらわす

例として箇条8.4 外部からの提供プロセスと、製品及びサービスの管理をフロー図にしてみましょう。

箇条の要求事項は、

8.4 外部から供給されるプロセス、製品及びサービスの管理

8.4.1 一般 組織は、外部から提供されるプロセス、製品及びサービスが、要求事項に適合していることを確実にしなければならない。組織は、次の事項に該当する場合には、外部から提供されるプロセス、製品及びサービスに適用する管理を決定しなければならない。

  • a) 外部提供者からの製品及びサービスが、組織自身の製品及びサービスに組み込むことを意図したものである場合
  • b) 製品及びサービスが、組織に代わって、外部提供者から直接顧客に提供される場合
  • c) プロセス又はプロセスの一部が、組織の決定の結果として、外部提供者から提供される場合 組織は、要求事項に従ってプロセス又は製品・サービスを提供する外部提供者の能力に基づいて、外部提供者の評価、選択、パフォーマンスの監視、及び再評価を行うための基準を決定し、適用しなければならない。組織はこれらの活動及びその評価によって生じる必要な処置について、文書化した情報を保持しなければならない。

以下、8.4.2管理の方式及び頻度⇒8.4.3外部提供者に対する情報 と続く。

この要求事項を絵に表すと、図5.のようになります。 ポイントは、「外部から提供されるものは全て、自分達が管理責任を持つ」というところでしょうか。 半製品や部材の購入、請負発注、サービスの委託、など外部から提供されるものは沢山あります。場合によっては親会社や関連会社からの製品・サービス提供もあるでしょう。その全てに対し、自分たちの組織で管理責任を負うことです。

もちろん現実には責任を100%の負うことは難しいのですが、そのつもりで取り組まなくては!ということです。多くの検証活動や、取引先選定評価の結果を判断し、業務を委託します。管理の度合いも自分達で決定するのであれば、サプライチェーン上流部分で発生した問題の排除も、自分たちが管理責任を負う覚悟を持つことになります。顧客に対する責任として不具合を出すわけにはいきません。 万一、外部提供先の問題で、顧客に迷惑を掛けたとしたら、「8.7不適合なアウトプットの管理」を行う事になります。

【図5】【図5】

例:製品及びサービス提供の管理と製品サービスのリリースをシンプルにあらわす

例として箇条8.5 製品及びサービス提供の管理と 8.6製品サービスのリリースを簡単なフロー図にしてみましょう。箇条の要求事項は、

8.5.1 製造及びサービス提供の管理 組織は、製造及びサービス提供を、管理された状態で実行しなければならない。 管理された状態には、次の事項のうち、該当するものについては、必ず、含めなければならない。

  • a)次の事項を定めた文書化した情報を利用できるようにする。
  • 1)製造する製品、提供するサービス、または実施する活動の特性。
  • 2)達成すべき結果
  • b)適切な監視及び測定の資源を利用できるようにし、かつ、使用する。
  • c)プロセス又はアウトプットの管理基準、並びに製品及びサービスの合否判定基準を満たしていることを検証するために、適切な段階で監視及び測定活動を実施する。

以下、c)~h)項までの要求事項があり、8.5.2識別及びトレサビリティ⇒8.5.3顧客または外部提供者の所有物⇒8.5.4保存⇒8.5.5引き渡し後の活動⇒8.5.6変更の管理 と続きます。この要求事項を俯瞰図に表すと、図6.のようになります。 このポイントは、製品やサービスの提供までに至る状況を、「完成度の高い製品サービスの提供を目指す流れ」を分かり易く俯瞰図で表すことでしょうか。

それぞれの企業様で、少しずつ内容は異なるかと思いますが、このプロセス全体を表すのはそんなに難しい事ではないと思います。 箇条「8.7不適合なアウトプットの管理」は、紙面の都合で省いていますが、今まで示してきた絵、図、フロー図で表した事例を参考にすれば、中小規模組織の事務局の皆さんであれば、シンプルに作成することが出来ると思います。

【図6】【図6】

上位文書作成について・・・まとめ

今回は、上位文書の(マニュアル・基幹文書)をいかにシンプルに解りやすくするかを、箇条8.2~8.6の事例で 解説してまいりました。私は、この連載を通して、文書・記録管理について以下の「自問」をお奨めしてきました。

「自問してみましょう」!

  1. この文書・記録の目的は何か?⇒何のための文書・記録か?
  2. 製品・サービスの提供に影響を与えるか?⇒品質リスクを持つか?
  3. 他に影響はあるか?(顧客、安全、環境、情報リスク、法令など)
  4. この文書・記録があることで、業務はやりやすくなるのか?効率化につながっているのか?

これらは上位文書として位置付けられる、品質マニュアルや二次文書(基幹文書)でも同じように適用できます。 少し違うのは、「ISO9001:2015の箇条に表されている要求事項の目的・目標は何か?」を もう一度考えることによって、絵や図や、フロー図に表しやすくなることです。目で見て概念を掴むことでシンプルな分かり易い文書になります。分かり易くなれば、事務局がいちいち細かい解説をする必要は無くなりますし、中小規模の組織・企業で 専任者がいないことのハンディキャップは補えます。ぜひ、皆様、再考をお願いいたします。

2015年版 内部監査の実施について

中小規模の組織でISO事務局の皆さんが、今一番頭を悩ませているのが、内部監査だと思います。自身が2015年改訂版を理解しよう、改訂版に沿ったマネジメントシステムを構築しよう、と奮闘している最中に、内部監査の実施方法は、まだ頭の中に無い状況ではないでしょうか。しかしながら、システムの再構築が終了すれば、その出来栄えを確認するのに、内部監査の実施は避けて通れません。「規格改定に沿った文書作成と、システム見直しに時間が取られているから無理!」「まだ自分自身が、新規格を理解できて無いのに、内部監査なんか無理!」というような声が聞こえてきそうです。

思い切って、ISO9001:2005が定着するまでは、「外部の力」を借りませんか?(図7)具体的には、

  1.  専門家であるコンサルタントに内部監査を依頼する。(期間限定での内部監査の外注化)
  2. 既に先行して2015改訂版を導入した企業に、内部監査を依頼する。(親会社、関連企業、提携企業他)
  3. 専門家主導の内部監査時に、内部監査員候補者をメンバー監査員としてチームに参加させ、2015年版監査を習得させる。

などです。

【図7】【図7】

内部監査員の育成

ISO専任者を置くことが難しい中小規模企業では、内部監査を外注化することにより、ISO9001:2015年版移行に注力することが出来ます。また、自社のマネジメントシステムの出来栄えを専門家に見てもらうことが出来ます。システムがこなれていない状況では、「内部監査員育成時間を買う」という感覚も必要ではないでしょうか?

今後もISO9001認証を継続するのであれば、当初の1~2年は外部の力を借りて、その間に自社監査員を育成することで、十分な費用対効果を得られると思われます。何が何でも自社で全てをこなすことも大事ですが、人的リソースが十分でない中小規模企業では、ある程度の割り切りが必要です。結果として、その方が時間の節約と、早期の人材育成が可能になるケースが多いのではないでしょうか。少々、乱暴な意見かと感じられるでしょうが、資源(人・モノ・金)の制約が常に伴う中小規模企業であればこそ、トップ主導で思い切った方策が取れると思いますが。いかがでしょう?

次号(2016年4月号)では内部監査について、もう少し詳しく提案をしたいと思います。

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