はじめに
この連載は内部監査で、先進的な企業を「Excellent内部監査事例」として紹介するページです。各社様の素晴らしい事例が紹介されているのを拝見するのは非常に楽しいものがありました。しかしながら、最終回を迎えるに当たり、最後にわたくしが寄稿することになるとは夢にも思いませんでした。私の拙文が何か皆様のお役にたつことがあれば、幸甚です。
進む統合・総合マネジメントシステム化
2014年8月号から続く、このリレー連載での皆様方の事例を拝見して、どの企業・組織も、内部監査では試行錯誤をされているのが伺われます。うまく統合内部監査をシステム化された、兼松エレクトロニクス様(アイソス2014年8月号)、内部アセッサ認定制度で内部監査の深堀を狙っている三菱電機インフォメーションズ様(同9月号)の事例を拝見しても、当初の適合性中心の監査から有効性重視監査に移行するために、大変な努力を重ねられ、結果として統合システムが有効性監査移行への良い機会となったことが解ります。同様に株式会社ニッキ様(同12月号)も統合マネジメント室がTS16949、ISO9001、14001の内部監査を取りまとめており、内部監査の判断基準の設定に注力をしています。また、ぺんてる株式会社茨城工場様(同10月号)は茨城工場長方針とその展開としての品質・環境目標の運用状況や進捗状況を、年2回の統合監査において確認しており、トップマネジメントの関心も高い状況です。内部監査はトップマネジメントの代行(指示)で行なうものである、というコンセプトが明らかです。2015年1月号の久永コンサルタント社様や、2月号の大阪いずみ生協市民生活協同組合様(わたくしも関わりあっている多国籍軍監査)でも、統合マネジメントシステム監査が当たり前のように行われています。この流れはISO9001、14001の2015年改訂版発行、労働安全衛生MSのISO45001の2016年発行に伴い、ますます加速するものと思われます。
と、ここまで書き進めた時に、ふと思い出したことがあります。2007年4月から9月まで、アイソス誌上に「内部監査の活用方法~その監査、マンネリ化してませんか?~」という連載を行いましたが、その中で内部監査の進歩の段階を予想しました。なんと!8年近く経過した現在でも、状況は殆ど変っていないということです。(驚)
内部監査の進歩の段階
2007年4月号に掲載した、内部監査の発展段階図(図1)を振り返りますと、第二段階から第三段階にステップアップする際に、大きな壁があることが解ります。 それを取りまとめたものが、2007年9月号に掲載した表1です。 多くの組織が第二段階の壁でつまづき、自組織の約束事に適合しているかどうかだけの監査になり、実務と乖離した内部監査にとどまっているのが現状ではないでしょうか。 アイソス2014年11月号では2006年から2014年のバックナンバーから、選りすぐり8社の内部監査事例が報告されています。 壁を乗り越え、統合マネジメントシステムにステップアップし、有効性監査に踏み込めた企業・組織が、「Excellent内部監査事例」として取り上げられていると感じました。
第一段階 導入期 | 第二段階 定着期 | 第三段階 成長期 | 第四段階 発展期 | |
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時期内容 | 規格適合確認期 | 自社システムとの適合確認期 | プロセス・パフォーマンス確認時期 | インーアウト・影響確認時期 |
システムの状況 | 規格に合致する文書の作成中心 | 業務改善サイクルの定着期 | マネジメントシステムと本業の一致 | 統合システム・複合システムへの進化 |
内部監査状況 | 規格項目に対するYES・NOチェック期 | 自社のマネジメントシステムと現状の一致確認期 | パフォーマンス重視の有効性確認 | サプライチェーンのインからアウトまでの監査 |
内包する問題点 | システムと現状の乖離 | 監査のセレモニー化 | ISO導入効果の可視化、自己宣言の可能性要求 | 監査の長時間化、複合・統合監査員育成の手間 |
監査プログラム | 集中監査方式 | 循環監査方式 | 集中監査方式+循環監査方式 | 監査計画・実績・対比監査方式 |
監査チェックリスト | 規格要求事項との対比確認ツール | 自社のマネジメントシステムとの対比ツール | 内部コミュニケーションツール | インーアウト・影響確認ツール(システム間の繋がり) |
監査の実行方法 | 第三者監査のミニチュア版 | 相互内部監査 | 内部コミュニケーションツール、監査側・被監査側相互の強みの共有化 | サプライチェーンの上流へさかのぼる監査 |
情報収集と検証方法 | 客観的証拠の収集 ・面談 ・活動の観察 ・文書の調査 |
4Mの変化店の情報収集、PDCAに沿った情報収集 | 業務プロセスの繋がりの検証、業務パフォーマンスの検証 | タートルモデルでの影響を与える要素の検証、コアプロセスの検証、システム独自部分の検証 |
不適合要因、対応 | 是正処置まで至らない修正の実施、監査員の伝達力不足、ISOのための仕事の存在 | 現象の改善、なぜなぜ不足、再流出防止処置監査のセレモニー化、先延ばし | 顕在化した問題処置へのPDCA、業務プロセス改善潜在問題の顕在化 | 改善の機会への対応、水平展開監査不適合の傾向分析マネジメントレビューの利用 |
監査員育成状況と手段 | 外部研修への参加 ・14時間前後の研修 ・場合により外部委託 |
自社基準の監査員育成 ・自前教科書作り ・自前育成プログラム |
パフォーマンス・システム改善能力育成 ・過去事例検討会 ・モデル職場に対しても改善案抽出 |
管理職研修のひとつとして ・部門運営研修 |
内部監査員に求められる能力 | ISO語を翻訳して被監査側に伝える能力 ・ISO語の理解 |
ケーススタディ等を通し、 ・パフォーマンス監査力 ・システム監査力 ・コミュニケーション力 |
トップから末端まで ・指示系統を理解した縦の監査力 ・サプライチェーンも意識した横の監査力 |
経営者の視点での業務監査 ・複数の管理手法の熟知 ・複数の経営手法の熟知 |
内部監査は大変!
確かに内部監査は「大変」です。 何が大変か? 「企業によって内部監査に求めるものが違う。」ということが「大変」です。 言い換えれば、「企業・組織によってISO(マネジメントシステム)に求めるものが違う。」ということでもあります。 辛口に言えば、
- 「認証書の取得」が目的の企業・組織は、認証書の維持が出来て、本業の邪魔をしない内部監査を求める。⇒本業を邪魔しない(?)マネジメントシステムとは何ぞや?
- 「顧客からの強い要望」でマネジメントシステムを構築している企業・組織は、「顧客からの強い要望」が無くなれば、システムの維持や内部監査に、力を入れる必要も無くなる。⇒誰のためのマネジメントシステムと内部監査か?顧客のため?それとも自組織?かつての「入札への通行手形的内部監査」
上記、1.2.のようなシステム・内部監査を望む組織・企業が存在することは残念ですが、それを容認してしまう現状の第三社認証制度にも問題がありそうです。システムの形骸化を招き、ISOそのものをダメにしてしまう可能性があります。 ただ、その是正の為に多くの関係者が取り組まれており、皆様方の努力に敬意を表しております。 この問題は別の機会に考察を発表できればと考えていますので、次に進みましょう。マネジメントシステムの価値を認め、自組織の継続的改善を求める企業は、内部監査の価値も理解しています。企業価値を高め、収益を上げていき、上手くマネジメントを回すには、内部監査で自組織の強み・弱みを把握し、システムの継続的改善を進めています。 継続的改善の対象は、仕事の仕組みであり、内部監査そのものを指します。 有効な内部監査が求められています。それでは、「有効な内部監査」とはどのようなものでしょう。
有効な内部監査って何?
さて、有効な内部監査という言葉がよく聞かれます。また「適合性内部監査」や「有効性内部監査」という言葉もあります。適合性を見る監査は有効ではないのでしょうか?また有効性内部監査と有効な内部監査は同義語なのでしょうか?自分なりの勝手な解釈ですが、
- 適合性内部監査・・規格、社内基準、法令や顧客要求事項への適合を確認する監査
- 有効性内部監査・・「システムが有効かどうかを評価する」ことを目的とした監査
- 有効な内部監査・・計画通りで、高い効果をもたらす結果が得られる監査
全ての監査が有効性監査ばかりを求めているわけではなく、時には適合性監査を優先しなくてはならない時もあると考えます。そのポイントは、プロセスをどのように見ているか?インプットとアウトプットの状況から、 適合性と有効性のバランスを考えることだと思います。 具体的には、インプットのばらつきの大小が関係します。(図2)
話を戻して、 有効な内部監査を行うには、有効な内部監査プロセスがあり、監査員が有効であり、監査が有効であることが不可欠です。(図3) どの企業・組織でも内部監査員の育成には頭を痛めていると思いますが、アイソス読者の皆さんの会社ではいかがですか?
1.統合マネジメントシステム化への対応
2014年11月号の「リスクと機会への取り組みを疑似体験する」リレー連載でも提案しましたが、統合・総合マネジメントシステムと平時のBCP(広義の事業継続計画)を融合させることによって、業務遂行マネジメントに規格要求事項が内包される形が自然の流れと考えています。(図4)当然ながら内部監査の領域も重なります。
BCPを含めた統合・総合マネジメントシステムの弱点として、
- A.内部監査員の育成が非常に難しく、時間がかかる。
- B.統合システムの考え方を浸透させるのに、時間がかかる。
上記2点が考えられます。Aに関しては地力のある企業では、内部監査員教育システムを作り上げ、監査員の力量向上に取り組むでしょう。またBについても、教育訓練システムや日常の目標管理の中で浸透をさせていくでしょう。しかしながら中小・中堅企業では、かなりハードルが高くなる問題です。
2.内部監査の2極分化
統合マネジメントシステムへの移行に伴い、自社マネジメントの継続的改善で、地道に内部監査員育成に取組む企業と、内部監査そのものを外部に委託し「プロの力を借りる」ことを選ぶ企業に分かれていくと予想します。
1)自前の内部監査員育成
将来の管理者層育成の手段の一つとして、統合内部監査員教育を行うことが考えられます。Q,C,D,E,Sと労務管理、BCPが、マネージャーの管理項目であれば、自社内のマネジメントシステム理解に内部監査を担当することが、最も手っ取り早い教育となるでしょう。その中から次代の上級管理者が育つでしょう。
2)内部監査専門職への委託
監査員育成の時間が取れない、又は育成対象者が少ない企業では、内部監査そのものを審査機関や教育機関、専門コンサルタントに依頼することが考えられます。2月号の大阪いずみ生協市民生活協同組合多国籍軍監査は、有志の外部専門家の皆様に内部監査をお願いしていますが、今後は有料での内部監査委託組織も出てくるのではないでしょうか。
3.内部監査の多重化
HLSによりシステム統合がスムーズになると述べましたが、内部監査員の知識は高度化が求められ、さらに複数システムの監査能力向上も期待されます。統合したことにより、監査の領域が拡大していても、掛けられる時間には限りがあります。これは、第三者認証審査にも共通していることですが、監査対象範囲が狭くなり中身が薄くなる危険性を孕んでいます。対応策として、上級管理者に対する内部監査と部門・部署に対する監査を分けて行う事も選択肢として考えることができます。(図5)
あとがき
内部監査の継続的改善は企業・組織にとって「永遠のテーマ」と考えます。マネジメントシステムの継続的改善と内部監査は車の両輪であり、どちらが停滞しても組織の事業戦略に影響を与えます。業務の縦軸と横軸に確認・検証の目を入れていく(図6)内部監査は、使いようによっては、効率化(無理、無駄、ムラの排除)、社員教育、管理者教育、認識の共有化、トップ方針の具現化、組織体質の強化、経費削減、売り上げ増、など大きな効果を発揮できるツールと思われます。読者の皆様も是非ご活用ください。